TIJ/01

3×3EYES(サザンアイズ)

単行本表紙 ヤングマガジン(講談社)で1987年から15間年続いた長期連載漫画。2002年完結。1993年講談社漫画賞。
 【あらすじ】主人公はごく普通の高校生、藤井八雲。民俗学者の父・一が民俗調査に赴いたチベットで行方不明になり4年。父親の遺骨と遺書を持ち「チベットから来た」という少女・パイが突然現れる。「私は人間ではなく、チベットの(中国の?)妖怪・三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)。私を人間にしてほしい」と少女に頼まれ、断る八雲だったが、妖怪騒ぎに巻き込まれ、三只眼吽迦羅の秘術「不老不死の法」で不死身の存在「无(ウー)」にされることで救われる。パイの願いを叶え、自分も人間に戻るための旅が始まった――(延々15年間も…)。


記念すべき、連載第1話の一番最初のコマ。改めて見て「そーだったんだ!」とビックリ。

ええ、はい。もういきなりチベットです。

 藤井教授、1983年にチベット入りしているとは、NHK特集「秘境カイラス」(1984年放映)取材班なみのチベットパイオニアですな。
 実際の連載開始は1987年ですけど、チベットに関する情報もまだ少なかったのでしょう。このシーンで描かれているのは、岩山とか崖ばかりで、とても人間が住んでいる場所とは思えません

 チベットから雲南ルートを通って昆明(クンミン)に抜ける途中、というマニアックなコースを通っているので(当時であればかなり道も悪かったことでしょう、わっはっは)、その途中、ということも考えられますが(梅里雪山にでも迷い込んだのでしょうか)、それにしても回想シーンのパイちゃんは、洞窟の中で貫頭衣のような服を着て、石臼で何か擦ってます(わはは!)。この時点での、サザンアイズ作者にとっての「チベット人」のイメージは、もしかするとほとんど縄文人のようなものだったのかもしれません。


その1/パイちゃん(三只眼吽迦羅)は何民族がモデルなのか?


 サザンアイズといえばあまりに印象に強いのがこのコスチューム(画像は1巻表紙)。
 まあ、私個人にとってだけ、激しく印象的なのかもしれないんですが……。

 個人的な思い出話になっちゃいますが、私が「サザンアイズ」を目にしたのはたぶん1989年頃。中国留学から帰ったばかりで、「雲南いいよぉ」「新彊もいいよぉ」「次は絶対チベットだぁ」という状態になってるころ、既にかなりの巻(といっても今ほどではない)発刊されてた「サザンアイズ」を知人から借りた記憶があります。「まんがに中国語が出てくる!」というけっこう単純な動機で。

 で、表紙を一目見て「サニだ! サニの女の子がいる!」と思ったのでした。
 (↑当時はチベットマニアというより中国西南少数民族フリークだった)


 え、“チベットから来た女の子”が着てる服なんだからチベットの服じゃないのか、って?
 ちっちっち。
 チベット服はねぇー。 このサイトでは「何を今更」な説明になっちゃいますが、チベットの服(チュバ)といわれて想像するのは

こんなのとか。 こんなのとか。

 ま、草原アムドに特化した“極端なチベット服の例”もあるけど、個人的にはこんなイメージですねえ。
 ウ・ツァン(中央チベット)やカム(東チベット)ではまた違うし、ラサのチュパがもっとも洗練されたチベ服だという人もいるだろうし(反論はしません)。
 私が最初に行ったのがアムドなのでどうしてもこういうのが先に来てしまうのかも(すいません)。貴族の女性の服とか、お祭りの時のカムモの衣装なんかはなかなかゴージャスなので、パイちゃんに着せてもよかったんじゃないかと思うんですけどね。
 ゴージャスってのは、例えば……

こんなのとか、 こんなのとか。
盛装のカムモ(東チベットの女性)ってこんな感じ。 ゴージャスでしょ!
※この辺の画像は西蔵図片庫の画像見本をお借りしました

 んじゃーパイちゃんは何族なのか?
 服装だけをみるに、どうも、彝(イ)族なのではないかと思われるのでした。最初の登場シーンで泥棒に「小愉(シャオトゥ!)」(中国語)と叫んでいて、コトバもチベット語じゃないみたいだし……。
 (「妖怪・三只眼吽迦羅なんだから人間じゃないだろ」という基本設定はこの際横に置いて“現実のモデル”を探しております)

 ※彝(イ)は中国の雲南省や四川省に広く生活するエスニックグループで、中国政府からは「黒彝族」と「白彝族」の2系統に分類されます。サニというのは中国雲南省シーリン(石林)周辺に住む人たちで、白彝(イ)族の1支系、とされてます。シーリンはかなり開発の進んでいる観光地で、クンミン(昆明)からバスで2時間たらずで行くことができます。

←こんなんとか
(白彝族の民族衣装です)

←こんなんとか
(これがシーリンのサニの服装。白を基調に、袖口に何色も重ねるのが特徴です)

←これは彝(イ)ではなくぺー族。漢語表記だと「白(bai)族」となってパイちゃんの名前にちょっと似てきます。あと、帽子はこっちからアレンジしてる気がしますね。

←これもぺー(パイ)族。
お祭りの踊り子さんで、コスチュームは民族衣装を踊りやすいようアレンジしてあると思われます


「チベットから4年もかかたよ!」と泣くパイちゃん しか〜し、そう仮説をたててみたのもつかのま。ヤクモくんに  

「4年も チベットから4年もカカタヨ!!」

 と泣いて抱きつくパイちゃんであります。

 ええ〜っお嬢さん、やっぱりチベットから来たことにしちゃうんですかー?
 お洋服もそんなだし、チベット語もお話しされないみたいだし、雲南あたりのご出身にしといたほうがいいんじゃないですかー? 麗江(リージャン)あたりなら彝(イ)もチベットもいますし…。
 デツェンなんて、今やチベットの伝説の土地「シャングリラ」を標榜してるらしいっすよ?
 本編のテーマのコンロン通った向こうの世界に行けちゃいそうっすよ!? 
 (連載時より20年ほど時代を下った1993年以降の話になりますが……)

 とゆーか、そんな設定(「チベットから来たヨ」)にすると、……そのうちチベットに行かなきゃいけない流れになるんじゃないですか〜?? 


その2/无&三只眼吽迦羅 チベットをゆく!


 そうです。舞台はチベットに移るのでした。
 新宿を舞台に話が始まり、2巻で香港へ渡った2人ですが、その後3〜4巻が在庫切れだったので展開がよく分からないんですけど、5巻冒頭、パイちゃんとヤクモ君は、どうも既にチベット入りしているようです。

 第28話、5巻最初のコマです。
 うわわわわ、ここはどこ……?

 僧院のようです。
 ドラゴンボールに出てきそうな服を着た坊主がいたり、抱きかかえられてる僧院長(ケンポ!?)の僧衣がやけに短くておみ足がにょっきりだったりしますが、

 「ティンズィン様!!」

とか叫んでいるあたり、ネーミングがやけに本格的にチベットっぽくなってきています。


 次のコマ。クリリンみたいな人が叫んでいるセリフ、「僧院長代理!!」のところには「ギエルツアプ」とルビが振られています。
 知り合いにあいにく「ギェルツァプ」君はいないけど、すごくチベット語っぽい響きがします。どんどんチベットらしくなってきました(微妙に怪しげな方向にではありますが)。この先に期待が高まります。

 ichhanさんから伝言板で貴重なコメントいただきましたので追記。
 「テンジン」がチベット人名というのはわかりますが、「ギャルツァプ(→ギェツァプ)」は役職名で、本来の意味は「摂政(=ダライラマ代行者)」なんだそうです。すごいぞ サザンアイズ!

<icchanさんのコメント>
 僧院長:これは個人名の「テンジン」(bstan 'dzin)でしょう。僧院長代理:役職名の「ギェツァプ」(rgyal tshab)と思われます。「ギェツァプ」は辞典によれば、「代理蔵王、即摂政王、在ダライラマ円寂之后、到“転生霊童”長至十八歳“座床”執政以前、代行ダライ職務」ということなので、僧院長代理の言葉として、「ケンツァプ」(mkhan tshab:spyi khyab mkhan po「総管長」の代理)を書こうとして、「ギェツァプ」(摂政)を写したのではないでしょうか。


いよいよゴンパ(僧院)全景の登場です


 出ましたーー、寺院の外観〜!!!!

 なんかすごいのキター! 
 どことなく微妙にチベット的で微妙に違います。「チベットらしく頑張ってみました」という意気込みだけがビシビシ伝わってきて、ツボを突かれまくりです。パーツパーツは……平らな屋根といい白い壁といい小さな窓といい、窓の周りの枠といい、確かにチベット風なんですが、全体としては何かが激しく違う。背中がこそばいチベット僧院です。いちばん凄いのは屋根に乗ってるでかくてなんかすごい突起でしょうか。攻撃されそうだ(笑)。超広角レンズで撮ったジョカンの写真を見て、縮尺を間違ってくっつけてしまったとしか思えん(笑)。


 上空からの俯瞰、きましたー!

 なぜ違和感を感じるんだろう、と考えてみました。

 (1)チベットの僧院は山の
斜面に沿って堂や伽藍、僧坊を密集して建設するために、結果として山全体が寺院であるように見える(うまく表現できない……)建て方がよく見られるのに対して、「サザンアイズ」のチベット僧院は、山の尾根と尾根を埋めるように、谷間に建てられている。
 (2)タルチョやダルシン、チョルテン、マニ車その他、僧院の周囲に必ず存在する付属物が全くない。屋根の上の鹿や日と月のモチーフが飾られる代わりに、非常に巨大化した欄干飾り(? 本来は四隅にあるのかなあ)みたいなのが鎮座している。
 ……あたりでしょうか。

 しかし激しくデジャビュです。いったい何に似てるのか、思い返してみました。


 こちらは、ギャンツェにある有名な「ギャンツェ・クムブム(パンコル・チョルテン)」。
 うん、写真探して見返してみたら、「んーやっぱコレがモデルかも」と確信が持ててきた気が。
 似てない? 似てない!?

 15世紀、既に宗派争いが激しくなったチベット仏教に対して、この地にゾン(居城)を築いたギャンツェ王が、すべての宗派の集大成として、特定の宗派に属することなく建立したのが「パンコル・チョエデ」。17ともいわれる宗派の学堂が集まり栄えた僧院の境内に、チベット仏教の悟りへの道を体現するものとして建てられたのが「ギャンツェ・クムブム」(高さ約38m)です。中は細かい伽藍に分かれ、10万体のタンカ(仏画)や塑像がアルという。菩薩の堂、如来の堂、タントラの修行階梯を描いた過程……と、右回りにひとつひとつ巡礼することで、悟りへの道を追体験することができるとか。
 モデルとなるのにひとつ残念(?)なのは、これはあくまでもチョルテンであって僧院じゃないこと。「ティンズィンさん」や「ギェルツァプさん」が作中で繰り広げている大立ち回りは、ちょっとこの中では無理そうです(いや私も行ったことはありまして、非常によい雰囲気の場所ですが、天井は低め、階段は急めです)。
 あと、周囲がかくかくの十字形に出っ張っているのは、全体が小部屋を連ねた回廊になってる構造だからこそなので、「サザンアイズ」作中のゴンパのように正面だけ、というのはちょっと違うかなー? と。


 んで、たぶん、屋根の上にどっかりと乗っけちゃったのはコレ↑ではないか、と。
 やはり有名な、ジョカン本堂の屋根の上の四隅の飾り。これをアップに、バルコル越しに見えるポタラの遠景をひっかけて撮る構図は定番なので、そのため実物以上に大きいイメージがあるのかも。上の画像でもかなり大きく見える(確かに実際かなりデカくはある)けど)、これも広角レンズで撮ってるからで、漫画ほど大きくはありません(笑)。

 あー、それでも画像いじってたらチベット行きたくなってしまいました。
 ……え、「サザンアイズ」には僧院(らしき)外観しか出てこないのかって? とんでもない! 同じ回(28話/5巻収録)に、おそらくラサ中心部という設定(?)の市街地風景がありましたー。


それでは市街地の風景3連発いきま〜す



 第28話(5巻収録)ラストシーンです。

 僧院内で主人公たちを襲った勢力が町中に紛れていることを示唆するシーンの風景描写。
 平らな屋根に商店の軒先に張り出したテント、そこはかとなくチベット風のニュアンスがでてます。窓枠を黒く塗ってくれたらもっとチベットっぽかったかな。背後の山がとがりすぎ(つーか、木が生い茂っているように見えるんですが?)なのは気にしない気にしない。



 上のコマに続くシーンです。

 「 聖堂へ通じる地下道」なんて、うっふっふ、“ポタラ宮の地下から続くシャンバラへの秘密の道”みたいじゃないですか〜。トンデモちべっと伝説の定番ではありますが、ここで着目すべきはセリフではなく、

タルチョらしきもの

の存在かも。(そういえば前のコマでも地面近くになにかタレてるのが見える^^)

 屋根の上でなく、金沢の「雪吊り」みたいな感じで木から万国旗状態です。というより激しく洗濯物化しています。市街地のタルチョというより、峠のプンツォ(モンゴル語でオボ)に似てる気もしますが。
 あと、その背後に見える石柱みたいのは何かな?

 この次のコマでは、公用電話で連絡を取っている敵対勢力の背後に看板が書き込まれているんですが、なにやらよく分からない架空の文字が記入されています。あくまでも狙っているのは「らしさ」「っぽさ」ということでしょうか。


 そんな私のガッカリ感は、頁をめくった次の回、第29話(5巻収録)でふっとばされました。
 この回はチベット描写が炸裂です。

 おおっ! なんか激しくチベットだっ!
 道の両側にタルチョが張り巡らされてるあたりは、ラサというよりネパールのチベット人街っぽい印象でもあります。毛糸の帽子もネパールっぽかったり。1週分話数が進む間に資料写真が手に入ったのか? という感じです。道行く人々がチベット服を着ていないのは、リアルといえばリアルなのか、それともパイちゃんと違っちゃうのでもろチベットな民族衣装は着せらんなかったのか……。
 さて、29話でのチベット描写の見所は背景の町並みではありません。


ついに(なんと)チベット文字でたーーー!!


 なんか50音表みたいなチベット文字です。微妙ですが、読めるような読めないような。初読当時はまったく気付いていませんでした。
 しかしこれは動かぬ証拠。
 「この風景はチベットを描いたものである」ことが確定いたしました(嬉)。


 買い物袋にもなんかありえない感じのチベット文字がー!(笑)

 「読めるような読めないような……」と書いていたら、icchanさんが解読して、伝言板でコメントくださいました! ちゃんと看板の意味になってるとは、恐れ入りました!!

<ichhanさんのコメント>
 カンバン・マクドナルドのチベット文字は合わせれば「lha sa'i (ラサの)・・・sna tshogs(など)tsa・・・gong khe po(安価)・・・」と読めるので、ここは「ラサの品物(など)は全部(tsa tshang)安い(です)」と書かれていたものを一部写したのではないでしょうか。


店頭の公衆電話にもチベット文字がー! 「しゃる」「ぱ」? うーん、「カ・パル」だと完璧だったんですが(笑)
と書いていたら、なんとこれは敬語!! だそうで…!

<ichhanさんのコメント>
 公用電話の文字は「kha par」(電話)の敬語「zhal par」です。飛行場という設定なので「kha par」のほうが正しいのでは。誰か見てきて!


 29話のラスト、恋人の危篤を知って飛行場に駆け込んだマクドナルドさん(画像の男性)が
 
「席はねーのか席は! アメリカ行きのチケット!!
と叫ぶシーンです。
 さっきなんかよくわからない聖地の入り口にいたと思ったら、馬に乗ってクンガ空港まであっというまに移動してます。(早っ!!) 
 *ちなみに実際は200km(!)あります。中国国内で最も目的地の大都市と離れている飛行場だそうです△参考リンク。治安維持上の理由があるのかもしれません。
 そのうえアメリカ行きの飛行機とは(笑)! 



<ichhanさんのコメント>
 飛行場の吊札の文字は「lag 'khyer ti ka se」(乗車券)と「gnam gru'i lag 'kh・・・・」((飛行機の)チケット)をあらわそうとしたものと思います。ただたぶん今のラサでは「khre phi'o」(車票)が使われていると思いますので、「ti ka se」(ticket)のほうは亡命チベット系の書物から(またはカトマンズなどで)写したのでは。この「ti ka se」は英語を話す若い亡命チベッタンが話すもので、私がチベット語を習った頃は亡命チベット人の間では「spa se」(パセ:pass)や「lag 'khyer」((通行)手形:許可証)が結構使われていました。 「lag 'khyer」「ti ka se」「spa se」「khre phi'o」のラサでの使いわけはどうなっているのでしょうか?

 中国はアメリカを仮想敵国にしてるし、チベットはアメリカからの攻撃材料にされている最も微妙な場所です。ヤクモ君が4年修行して物語内の時間軸は1991年。87、89年に"暴動"があって2年足らずで、ラサ→アメリカ直行便が出来たとは思えません(つうかありえん)。
 アメリカ人は世界中どこでも自分たちを中心に回っていると思っているようなので、クンガ空港だろうとダムダム空港だろうと「アメリカ行き!!」とか叫んでる可能性は非常に高く(>ホントかよ)、リアルといえばリアルですが(>アメリカ人が怒るぞ)、それに対するクンガ空港職員の返事が
 
「午後の便ならキャンセルがありますが」
 っておい!!
 ここが中国領チベットならここは「没有(メイヨー)!」以外ありえんでしょう、セリフはー! 
 などと思うわけですがそんなことはどうでもよくって。

 背景のチベット語看板、
チベット文字がバランス取れて上手になってきてます。
 (何をしょうむないところに反応してるんでしょうか私は。)

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付記:このページでは参考のため「『3×3EYES(サザンアイズ)』高田裕三/講談社ヤングマガジンKCスペシャル」から画像をお借りしています。
付記その2:画像はWebのあちこちからお借りしています。縮小して表示しているものもあります。お借りしたおことわりをつけて、元サイトにリンク貼ってしてお礼を……と思ったのですが、Webを巡回しているうちにどこから何をお借りしたか分からなくなってしまいました(ごめんなさい)。暫定的にこのままアップします、申し訳ありません。画像の元位置を確認でき次第、リンク貼っておことわりしたいと思います。